+-++-++ ケース3α.[その溝に金魚は泳ぐ] ++-++-+
 
 


 はじめまして、こんにちは。わたし伝書金魚です。
 毎日暑い日が続いていますねー。わたしは体の周りを水に覆われているので快適ですが、フミちゃんは1日に5回も10回も「暑い」と言って、理平くんに「寒いと困るよ」と言われています。
 そんなふたりの間を取り持つわたし、それなりに苦労もあるのです。
 おや、向こうからやって来るのは同僚のワキンさんです。スラリとした体で、スイスイ泳いできます。
「やっ、リュウキンさん」
「こんにちは、ワキンさん。速達ですか?」
「そうなんだよ。フミちゃんから、アイスを食べるのに……アイスが……なんだっけ、えぇと」
 ワキンさんは大きなカバンから書簡を取り出して、それを読み上げました。
「そうそう、えぇと、アイスを食べるのに大した理由は必要ないの、強いて言うなら"暑いから"で充分なの……って」
「あらまぁ。理平くん、また何か余計なことでも言ったんでしょうか?」
「さぁね、あの人のことだから大した意味もなく聞いてみただけじゃないのかな。おっと、こうしちゃいられない。じゃあまた、リュウキンさん」
 ワキンさんは再びスリムな体を左右に揺らすように、スイスイ泳いでいきました。
「じゃあまた、ワキンさん」
 わたしはワキンさんに長い尾を振って挨拶すると、ハッと我に返りました。
 そうそう、わたしも届け物の途中だったんだ。ぶらさげた大きなカバンを開いて書簡を確認すると、長い尾を揺らして進みました。
 今日はとても良い天気です。
 フミちゃんと理平くんは近くのショッピングモールに買い物に来ているようです。
 ふたりとも、それほど買い物好きなわけじゃないのですけど、今日はふたりの共通の友人にプレゼントする品物を探しに来たようです。
 フミちゃんは、さっきから美味しそうなお菓子にばかり目が行っています。
 理平くんは、さっきから最新型の電化製品にばかり目が行っています。
 ふたりの意見は平行線。
『理平くんったら、さっきから自分の欲しいものばかり見てるじゃない』
『フミは自分の食べたいものを見ているね』
 ああ、急がなくちゃ、急がなくちゃ。
 わたしは長い尾を必死で揺らして、揺らして、ようやく、プゥと頬を膨らませているフミちゃんのところにたどり着きました。耳元にゆっくり回りこむと、書簡をそっと読み上げます。

 プレゼントを選ぶというのは口実、ただ一緒に出かけるのが楽しいんだよ。

 理平くんからの伝書です。
 プゥッと頬を膨らませていたフミちゃんは、急ににっこり笑みを作りました。
 ふたりは再び、ショッピングモールの中を歩いていきます。ふたり仲良く、一緒に。見ているものはまるで違うけれど、フミちゃんが指差したものを理平くんが見て、理平くんが指差したものをフミちゃんが見ています。そのせいか、ふたり分、楽しみが膨らみます。
 あぁ、良かった、間に合って。
 わたしは長い尾を揺らして、楽しそうなふたりの間をゆらゆら泳ぎました。



《 楠瀬さん談 》
 なにせ3秒ですから、惰性でのんきに進みますが、ハッとうろたえては大きなかばんから書簡を取り出し、届け先を確認しいしい参ります。

 
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マボロシ文庫の楠瀬ハフリさんから
伝書金魚の残暑見舞をいただきました。
そこに私が小話を付けてみました。
素敵なプレゼントをありがとうございました!

(2005.08.28)

 

ここに置いてある画像はすべて楠瀬ハフリさんに著作権があります。どうか無断で持っていかないでくださいね。

 

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