+-++-++ お針子ルールー ++-++-+
   

[T-2]

 そうして長い長い時間がたちました。
 ようやくほとんど完成し、今度は純白のサテンに金色の花を刺繍するために、ルールーは黄金色に染められた糸に手を伸ばしました。

 この黄金の糸は、雲まで届く高い山にひっそりと生えている金色の花からとった搾り汁で、何日も何日もかけて染められた、とても高価な糸でした。
 ルールーはこの糸のあまりの美しさにうっとりとしていました。

 ところがその時です!

 ルールーの細くて小さな手から、糸巻に巻きつけられていた黄金の糸が、ひとりでに転がって落ちたのです。

 コロコロコロと、釣鐘形の糸巻ごと黄金の糸が転がっていきます。糸がなければ刺繍ができません。ベールを完成させることができないのです。
 ルールーは慌てて糸を追いかけました。

「待って、待ってよ!」
 黄金の糸はルールーの小さな部屋を飛び出して、埃っぽく暗い廊下を転がり、ところどころ板の腐った階段を転がり落ち、石畳のでこぼこした道をどんどん転がっていきます。

「お願い、誰かその金色の糸を止めて」
 ルールーは必死で助けを求めましたが、夜遅くのことで、道には誰も歩いていませんでした。
 どこまでも、どこまでも、黄金の糸を巻きつけた糸巻は転がっていきます。

 そうしてふと気付けば、ルールーは深い森の中にいました。
 街の明かりはまるで見えません。暗い夜空にぽっかりと、金色のボタンを縫い付けられたように月がのぼっています。
 あたりは静まり返って、なにか恐ろしいオバケが出てきても不思議ではありませんでした。ルールーは怖くなって、ちょっと足を止めました。

 それでも黄金の糸はポンポン跳ねるように、森の中を転がっていきます。それでルールーも再び足を動かしました。

「お願いだよ、待って」
 ルールーは泣きそうになりながら黄金の糸を追いかけました。

 そのルールーの前に、ガサッと藪を震わせて、立ちふさがる人がいました。

「ここからは通さないんだぞ」
 それは大きな大きな、まるでクマのような、クマそのものに見えるのですが、話す言葉は人間の言葉で、声は大人の男の人のものでした。
 ルールーは怖くて立ち止まりました。
 けれど、黄金の糸はクマのような男の人の、まるで太い幹のような足の間を転がりぬけていきました。

「お願いします、通してください」
 ルールーは頭を下げてお願いしましたが、クマのような男の人は頑として首を縦に振りませんでした。
「この先は立ち入り禁止だぞ。誰も通しちゃいけないんだぞ」
「でも糸がどうしても必要なんです」
「糸のことなんか知らないぞ」

 男の人はとても大きいので、自分の足元を転がりぬけていった黄金の糸が見えなかったのです。ルールーは困り果ててしまいました。

 あの黄金の糸はとても高価なので、他で代用することはできません。
 どうしても、あの糸でなければならないのです。



 
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