真っ赤なトマトが弾けるような、香ばしい匂いはピザの焼きあがる匂い。匂いだけは一流レストランにも負けないけれど。 「ねえー、錬司、ピザ焼けたー?」 キッチンと対面式のリビングのソファーで、こっちを見ずにテレビ画面を見ながら、母さんが聞いてきた。日曜日の昼下がり。今日の昼ごはんは冷凍のピザ。先週は冷凍のホットケーキ。そのまた前が出前のラーメンで、そのまたまた前にも冷凍のピザ。 僕はオーブンの中を覗きこみながら言った。 「もうこれ、駄目なんじゃない?」 途端に、むかっ腹を立てたようにオーブンの火力が強まったように思った。けれどそれも一瞬のことで、中の冷凍ピザは焦げ目が出来ることなく、じっと沈黙したままだ。チーズのプツプツという歌も聞こえてこない。 ここ最近、オーブンの調子が悪い。 「しょうがないわね。じゃあ、ピザ屋さんに電話して美味しーいピザを持ってきてもらいましょ」 母さんはそう言って、電話の子機を指差してお願いねと笑った。ソファーから立ち上がることもなく、ただ少しの間僕に笑いかけ、その後ですぐテレビ画面に顔を向ける。 それもいつものことだから、僕は子機を持ち、いつも頼むピザ屋さんに電話をかけ、いつもの台詞を口にする。 ここ最近、母さんがキッチンに立つことはほとんどない。 平日は夜遅く帰ってきて、週末はこんな調子でソファーから立ち上がることもない。立ち上がりたくないんじゃなくて、疲れてグッタリして立ち上がれないのを、テレビを見るふりをして誤魔化しているんじゃないかと思う。 母さんは働きすぎだと思う。前にテレビでやっていた過労死とか言う恐ろしいことになったらどうしようかと、僕は心の中で心配している。少し前、僕が少しくらい休めばいいのにと言ったら、錬司を養うためなんだから、と怖い顔をされた。 そんな風に言われたら、もう何も言えない。 僕はピザ屋さんの持ってきた熱々のピザを食べながら、ここ最近、ぐっと老け込んでしまったように感じる母さんの顔を、チラチラ盗み見た。 * 「おう、錬司、ちょっとツラ貸せよ」 僕がキッチンで皿を洗っていると、オーブンの方から声がした。 小さな頃はオーブンの中の小さな太陽だと信じていた、サングラスに黒い背広姿で柄の悪いヤクザ風な男が、僕に声をかけてきた。オーブンの中に小さな太陽なんかあるはずないって分かる年齢になっても、僕には彼が何者なのか分からない。時々こんな風に、キッチンに立つ僕に声をかけてくる。 「無理、ツラなんて貸したら僕の顔がなくなって大変な騒ぎになっちゃうよ。それに今はお皿洗っているんだから」 「ふん、生意気言いやがって」 水の音と皿のぶつかる音が、キッチンに静かに響いている。母さんはピザを食べたあと、テレビを見ながら眠ってしまった。 「なあ、ママさん、疲れてねーか?」 オーブンの中からヤクザ風の男が、僕にそんなことを聞いてきた。この男はいつもこうだった。いつも母さんのことを聞いてくる。 「疲れていると思うよ」 「なんか、疲れてるだけじゃなくってよ、なんか、こう、沈んでねーか?」 「部長さんに怒られたんじゃないの」 「なにっ? そいつはどこのどいつだよ。連れて来い。おれがぶん殴ってやる」 シンクの中の泡が、プチプチと小さく弾ける。言葉だけは血気盛んな男に、僕はため息という反撃に出た。 「ぶん殴って解決するような問題なら、僕だってそうするよ」 それは母さんのことを言っているようで、違うことでもあった。僕は10歳になって、解決するのに時間のかかることもある、もしくは解決しないかもしれないこともあるって薄々勘付く年頃になった。 「おう、どうした。元気ねーな。さては、さっきのピザがまずかったんだろ? やっぱりおれの焼いたピザじゃなくっちゃな」 オーブンの中から男が一方的に話し出した。この男は母さんに関係していることにはとても目聡いけれど、それ以外はからっきしだ。 僕はシンクの前でクルリと回転すると、オーブンに向き合った。 「最近さぁ、調子悪いよね」 僕の言葉に、男はすっと顔色を変えた。傷付いたという風でもない、怒りに燃えているという風でもない。どこか、奇妙な静寂をもった顔色だった。 「そんなこた、ねーよ。今日はちょっと冷凍ピザが凍りすぎてて」 「先週もホットケーキを焼くのにずいぶん時間がかかったよね。あげく、中が少し冷たかった」 「そんなこた……」 「母さんも言っていたよ。そろそろ買い替え時かしらって、ね」 男は口を真一文字に結んで、じっと僕を睨みつけてきた。そして、ドンと、オーブンの中の壁を叩いて言った。 「こいつはまだまだやれる。こいつにそんな風な口をきくと、いくらおまえだって許さねーぞ」 男にとってオーブンは、自分の舎弟のつもりのようだった。 僕はまだ言い足りない気持ちをおさえて、クルリと回転してシンクに向き合った。シンクの中に僕の顔がうっすら映っている。 それが気持ち悪いくらいゆがんでいた。 * 教室に入るのがいやだ。勉強が嫌いなわけでも、朝早く起きるのがつらいわけでもない。教室は、僕を受け入れてくれない場所だった。 机につくと、いつもどこかに僕の悪口が書いてあった。小さな紙に書いてあることもあれば、机に直接書いてあることもあった。その悪口はただ一言。 マザコン。 最初はただムカッときて、顔が熱くなって、腹が立った。何も知らないくせに。僕と母さんのことを何も知らないくせに。 そう思う反面で、どこか心が暗くなった。 マザコンという言葉は、テレビの中で使われていてなんとなく知っていた。それでもこっそりと、学校の図書館で、辞書を引いて調べてみた。 マザーコンプレックス。 それは口の中がザラザラとしてしまいそうな響きを持っていた。悪い意味でしか使われない言葉のように感じた。バカとかチビとか、そういうのと同じ響きを持っていて、それ以上に内側まで切り込んでくるような鋭さがあった。 僕がトイレから出て手を洗っていると、後ろから小さな笑い声が聞こえてきた。 「見ろよ、あのハンカチ」 「きもっ、花柄じゃん」 「きっとママに買ってもらったんだぜ」 違うと言い返したかった。 でも、事実だった。ハンカチは母さんに買ってもらった。と言うより、母さんのお古をもらった。仕方がない。新品のハンカチを買えるほどお金があるわけじゃないんだから。 我慢して、我慢して、我慢して。 僕は自分に言い聞かせた。母さんのためもある。でもそれ以上に、僕がそいつらに言い返せば、僕がマザコンであることを認めてしまうような気がして怖かった。 * 今週の日曜日も、ママはソファーにいて、僕はオーブンの前でなかなか焼き上がらないピザを見ていた。 「ねえー、錬司」 母さんの声に、僕は「まだ焼けてない」と返した。てっきり焼けたかどうか聞かれたのだと思った。けれど、母さんの声はまったく別のことを言ってきた。 「最近、あんまり外に遊びに行かないわね」 その言葉に、僕はギクリとした。小学校の低学年の頃には一緒に遊んでいた子たちも、今は影で僕のことをマザコンだと言ってからかう。今の僕にはひとりだって友達がいなかった。 「今は……寒いから」 わざと咳をして寒がっているふりをした。僕はオーブンの中で少しも焦げ目のつかないピザを見詰めていた。どこを見ていてもよかった。母さんの顔じゃなければ。 「ねえ、錬司。ママに何か隠し事をしてるでしょ」 いつもは決してソファーから立ち上がることのない母さんが、今日は立ってキッチンまでやって来た。そうして僕の隣に立って、僕の頭のてっぺんを見下ろしてくる。僕は頭のてっぺんから煙でも出そうなほど、そこが熱いと感じていた。 「別に隠し事なんか……」 「西やんはどうしたの? 昔はいっつも一緒にいたのに、近頃はまったく遊びに来ないじゃない。元気なの?」 西やんというのはこの間僕のハンカチを見て、「きもっ」と言ったあの子のことだった。昔はよく一緒に遊んだ。 「西やん、塾に行くようになったから」 「そうなの。塾に……」 母さんの声が、塾という言葉で暗くなった。それが一層、僕の心まで暗くした。暗くしただけじゃなく、やるせないものにさせた。ウソじゃなかった。西やんは塾に行くようになって僕と一緒に過ごす時間が少なくなって、次第に離れていった。 でも、塾に行ったことが西やんに、「きもっ」という言葉を言わせる理由になったとは思えなかった。本当の理由は違う。でもその理由を母さんに言うわけにはいかなかった。 赤いオーブンの中にピザが見える。焦げ目すらなく、少しチーズが溶けてきたかどうかというくらいの。 オーブンの中は明るかった。けれど、昔ほど明るく感じないのは、僕が成長したからでもオーブンが古くなったからでもない。 ただそういう時期が、誰にでも何にでもやって来るということなんだ。 僕は母さんに背を向けて、キッチンから走り出た。もうこれ以上少しでも長く母さんの隣に立っていたら、どうしてうちには父さんがいないのって、残酷なことを喚いて、泣いてしまいそうだった。 * 月曜日の朝、いつもと違ってキッチンには灯りがついていた。冬の朝、背中を丸めてキッチンにやってきてお湯を沸かすのは、ここ最近は僕の仕事だった。 「あら、錬司、起きたの。おはよう」 母さんが、ばっちり化粧をしてばっちり余所行きに着替えて、キッチンで僕を迎えた。その手には朝ごはんのベーコンエッグが乗っていた。 「……どうしたの?」 僕は寝ぼけているのかと、何度も目をこすった。母さんは僕の背中を押してリビングに追いやった。 「いいから、いいから。朝ごはんにしましょ」 何だかすごく違和感のある朝だった。でもその違和感も、じわじわと胸の中心から広がっていく嬉しさに吹き飛んでいく。 「いただきまーす」 母さんと声を揃えて言った。こんなのは、本当に久しぶりのことだった。僕はあったかいスープを飲んで、あったかいトーストをかじり、あったかいベーコンエッグをフォークでつつき、あったかいリビングで母さんと笑い合った。 そうして、朝ごはんが僕のおなかをあっためて膨れさせた頃。母さんが、僕の前にそっと差し出してきたものがある。それを見て、僕の顔は引きつった。 「これ、西やんに持っていったら? ケンカしたんでしょ? 昔から仲直りの時にはこれを持って行ったじゃない」 母さんの差し出してきたものは、パンケーキのたくさん乗ったお皿だった。 「ちょっとオーブンの調子が悪くて、膨らみ方にムラがあるけど、味は大丈夫よ。西やんもこのパンケーキ、好きだったでしょ。ほら、持っていきなさい」 その一言一言が、僕には重くてしょうがなかった。 僕は母さんの差し出したパンケーキを、押しのけようとした。それがいけなかった。母さんの手と僕の手で挟まれたパンケーキは、行き場を失って床に落ちた。 パリーンという音が、やけに耳の奥まで響いたように思った。 パンケーキは床に落ち、お皿は粉々に砕け散った。 「こんなのいらないよ! もう僕だって子どもじゃないんだから!」 僕は母さんに向かって怒鳴った。 パンケーキひとつで何でも解決できたのは、もうずっと遠い遠い昔のこと。今はそんなもので解決することなんてひとつだってなかった。 * 学校が終わってもまっすぐに帰る気になれなくて、僕はブラブラと歩き回って時間をつぶした。それでも小学生がひとりで行けるような場所はなくて、重い足を引きずるようにして家に帰ってきた。 洗面所で手を洗ってうがいをして、それからキッチンでジュースを飲もうとしたとき。 キッチンが、妙にガランとしているような気がした。 僕は冷蔵庫からジュースを取り出そうとしていた手を止めて、そのままキッチンをぐるりと見回した。何か変だった。何か、そこはいつもと違うように思った。 それでも僕は自分のことでいっぱいいっぱいで、考えるのをやめた。ジュースを取り出して、一口飲む。いつもはこのあたりで、オーブンの中から声がする。 『おう、錬司。今日もママさんは遅いのか?』 『よお、錬司。今朝のママさんはいかしていたな』 けれど今日はいつまで待っても、オーブンの中からの声が聞こえてこなかった。それで僕はオーブンの方に顔を向けた。 そして、ようやく気が付いた。 キッチンがどうしてガランとして見えたのか。 いつもそこにあったはずの赤いオーブンが、なかった。そのぽっかりとあいた空間を埋めようとしたのか、小さな一輪挿しが置いてあるだけで、オーブンはそこになかった。 久しぶりに息が止まった。 驚いて、息を吸うことが出来なかった。 僕はよろめくように電話機のところまで行くと、子機を持ち上げ、緊急時のために教えられていた母さんの携帯電話の番号を押した。かなり長い時間がかかって、母さんの声がした。 「錬司、どうしたの、どこか痛いの、具合が悪いの? 大丈夫?」 そんな母さんの心配そうな声を押しのける勢いで僕は言った。 「オーブンは? どうしたの?」 一瞬だけ母さんは僕の言った言葉が飲み込めなかったのか沈黙して、それからため息のような小さな声を出した。 「なんだ、そんなこと。もう古いし、冷凍ピザを焼くくらいでしか使わないから、粗大ごみで引き取ってもらったのよ。新しいオーブンレンジが夕方に届くことになっているから、お願いね」 母さんの声に、僕はかんしゃくを起こしたように喚いた。 「ママの馬鹿! どうしてオーブンを捨てちゃうんだよ。僕がパンケーキを嫌がったから? 嫌だったわけじゃないんだよ。違うんだよ。でももうパンケーキは持っていけないんだ。西やんだってもうパンケーキを食べてくれないよ」 「錬司……?」 「新しいオーブンなんかいらない。あのオーブンじゃなきゃ駄目なんだ。壊れたって置いておかなきゃ、あいつが死んじゃうかもしれない!」 「ちょっと、錬司どういう」 ママの言葉の途中で僕は電話を切った。子機を放り出すように置くと、玄関に走った。オーブンとオーブンの中の男が心配だった。 僕のせいで捨てられた。 走っている間、そんな言葉が僕の頭の中をグルグル回った。僕がパンケーキを嫌がったから。僕がオーブンの調子が悪いって言ったから。 限りなく絶望に近い気持ちで、僕は走った。粗大ごみがどこに集められるのか知らなかったけれど、じっとしてはいられなかった。とにかくごみ捨て場を回った。 太陽が西に傾いて、辺りは暗くなり始めた。 母さんが僕を養うために働いて、帰りがどんなに遅くなっても我慢できた。オーブンの中から声が聞こえてきたから。 一人っ子で父さんもいない僕にとって、オーブンの中からの声は唯一、意地の悪いことを言ったりケンカしたり、そういうことのできる相手だった。 八つ当たりだって出来た。 オーブンの中に小さな太陽なんてあるはずないって分かる年齢になっても、あいつと話すのをやめなかった。楽しかったから。楽しかったからだ。 僕は泣きそうになって、口をへの字に曲げて我慢した。 泣いてあいつが戻るくらいだったら、何時間でも泣いてやる。何日だって泣いてやる。でもそうじゃないから、僕はひたすら走って、走って走って走って、ふと、公園のベンチに座る男を見つけた。 「なんで!」 僕は頭の中がめちゃめちゃになりそうになりながら、公園のベンチに駆け寄った。そこにはあの男がいた。いつもはオーブンの中にいる男。それが、普通の人間と同じ大きさになって、ベンチにぽつんと座っていた。 「おう、錬司……」 男は気の抜けたような声を出した。僕が走ってきても笑顔すらない。もともと笑顔なんてほとんどないような男だったけれど。 「なんで?」 僕の声に、男は突然殴られたみたいに顔を歪ませ、肩を上下に揺らした。 「あいつ、あいつが、おれのために」 男が切れ切れに語ったところによると、長い間大切に使われてきた物には魂が宿るそうだ。それが、あのオーブンにも起こった。オーブンは捨てられる前に、自分に宿った魂を男に与え、自分は粗大ごみとして引き取られていったらしい。 「馬鹿だ、あいつは。せっかく与えられた魂を、おれなんかにやらなくても」 僕には何が何だかよく分からなかった。物に魂が宿るなんて想像したこともなかった。けれど昔、母さんがオーブンを磨いているとき、オーブンは無機物で心なんてないはずなのに、やけに嬉しそうだったことを思い出していた。 「探そう」 僕の声に、男はのろのろと顔を上げた。 「諦めずに探そうよ、オーブンを。どこに引き取られたか、知っているんだろ」 戸惑っている男を、僕は引きずるようにして走った。 簡単にもう駄目だなんて言ってごめん。駄目じゃない、駄目じゃないんだ。簡単に駄目だなんて言って線を引きたがるのは、ただわずらわしいことが減ればいいと思う、僕の心の弱さのせいだ。 時間がかかるなら、ゆっくり待てばいい。 いつも僕たちのために、今までずっとピザを焼いてくれたんだもの。少しくらい待ち時間が増えたって、その分、その時間を楽しめばいい。 僕と男は、藍色に染まりつつある空の下を全力で走った。 そして、道の向こうから歩いてくる人影を見つけて、まず始めに男が立ち止まり、そして僕も立ち止まった。 母さんが、あの赤いオーブンを抱えて歩いてくる。 僕は思わず時間を確認したくなった。まだ空が完全に暗くなっていない。いつもはまだ、母さんが働いている時間だ。 母さんは僕と僕の隣に立つ男を見つけて、少し怪訝そうな顔をしながらも笑った。 「何だかよく分からないけど、返してもらったわよ」 母さんの腕に抱えられたオーブンは、西の空から少しだけ覗いている太陽に照らされて、ほのかに明かりが灯っているようだった。 * それから3日が経とうとしていた。 「おう、錬司。メシが出来たぞ」 寝ている僕をゆすってくるのは、オーブンの中にいたはずの男。今もサングラスに黒い背広姿は相変わらず。でも最近は少しだけ笑うことが多くなった。 「文治(ぶんじ)さん、悪いわね」 母さんはリビングのテーブルで、男の出すコーヒーを美味しそうに飲んでいる。実はあの後で、僕は生まれて初めて母さんにウソをついた。 男のことを、王文治(おう ぶんじ)という名前の、身寄りのない人で僕の友達だと言ったのだ。普通は信じられないようなこの話を、母さんは疑うこともなく受け入れた。そして家に招き入れたのだ。 どうして母さんがそんなウソみたいなウソの話を信じたのか、僕には分からない。 そして、僕は相変わらずクラスのやつらからマザコンと言われている。けれど、今はその言葉に強気で言い返していた。 あんまりナメた真似してっと、どてっぱらに風穴があくぜ。なんてことは言わないけれど、男に教えてもらった、母さんが聞くと眉をひそめるような言葉を、こっそり使うこともある。 そのせいか、マザコンと言われることも段々と少なくなってきた。 僕は10歳。 マザコンと呼ばれるには10年早いって、オーブンの中から出てきた男はフンと鼻で笑う。おれと張り合うには10年早い。そう言って。 何だか違う意味にも思えるけれど、それはまた今度聞くことにしよう。 そうそう。オーブンは修理に出されて、今も現役で頑張っている。
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| オーブンの中の小さな太陽の続編です。 悲しいことや苦しいことも時にはあるけれど。 何かを、誰かを、思う気持ちだけは 忘れないでいて欲しいです。 (2006.11.19) |
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