+-++-++ スクラブ洗顔 ++-++-+
   
 
 
 ザバアッと顔にお湯をかけた。
 あんまり思い切りかけすぎて、襟のところにまでかなりの量のお湯が飛んだのが分かった。ジワリと、最初は温かかったのに、しみこむにつれて冷たくなっていく。
 洗面台に手をついて、正面の鏡を覗き込む。はれぼったい目をした、化粧っけのない女が睨み返してきた。

 私――
 今朝はこんなに顔色が悪いんだ。

 開け放した洗面所のドアの向こうからは、日曜日の朝の緩慢すぎるくらい緩慢なラジオが流れてくる。懐かしのヒット曲。
 ちょうど流れてきた80年代アイドルの歌を口ずさみながら、洗顔料を手に取る。手の平に、ちいさく「のの字」を一回書いてパチンと蓋をした。
 フンフフフン。
 右手を回すようにして、泡を作る。
 スリッパ履きの足のかかとを、リズムに合わせて上げ下げする。アイドルらしい弾けるような軽快な曲に、身体は小さく踊り出す。
 曲のサビ、キャッチーでポップな盛り上がりの中、手の平の上の洗顔料もちょうどいい具合にあわ立った。
 鏡の中の自分にもう一度だけ目を走らせると、腰を折り、洗顔料の白い泡をそっと顔に近付けていった。
 顔の上で手の平を滑らせると……ザラザラとした感触があった。スクラブ入りの洗顔料。細かい粒が、肌を刺激してくる。

 あれに似ていた。
 幸也の少し伸びた髭の感触。

 顔の上を滑っていた手が止まる。
 急速に、ラジオの音楽が遠のいた。目を閉じた暗闇の中、思わずフゥと吐いた自分のため息がやけに鮮明に聞こえた。
 日曜日の朝、おはようと言って幸也がキスをしてくる時。ちょっと伸びた髭が、頬をくすぐって……。
 唇が、幸也と呼びそうになって、ピクと動く。
 泡だらけの顔。
 ひとりの朝。
 もういない男の感触。
 ジワリと目の横に涙が浮いた。出て行った男のことなんて、考えたって意味のないことなのに。泣いたからって戻ってくるはずもないのに。
 ひとつ息を吐いてから、再びゴシゴシと、泡だらけの手の平を顔にこすり付けた。少し乱暴に、スクラブを潰すように。
 日曜日の朝はいつも通り。
 幸也がいなくなっても変わることなく訪れる。終わった恋、出て行った男、クヨクヨしたって仕方ない。
 ザバアッと顔にお湯をかけた。最初よりもっともっと勢いよく。
 そうよ。
 鏡の中の、泣きはらした目をした女に言い聞かせる。

 ―― 終わった恋なんて、きれいさっぱり洗い落としてやればいいの。
 
 
end  

 

スクラブという言葉の中に、
「ラブ」という言葉が隠れていることに気付いて、
そこからの連想で書いてみました。
顔を洗ってすべてを洗い落とす。
そういう、たくましい女性に憧れます。

(2005.05.01)
 

 

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